研究概要 |
高サイトカイン血症は、手術侵襲・重傷膵炎・外傷・熱傷・ショック敗血症などの様々な侵襲に対して引き起こされる過剰な生体反応の背景に存在する。神経・免疫・内分泌の連関が一連のストレス反応の基礎に存在すると考えられるが、それを担う細胞の反応をレドックスの観点から捉え、細胞内レドックスシグナルとリン酸化を中心とした従来のシグナル系のクロストークの重要性を明らかにすることを目的として、炎症性サイトカイン・感染などのストレスに対する生体応答における酸化・還元(レドックス)制御機構の解析を進めた。生体内のレドックス制御因子のひとつであるチオレドキシン(TRX)は、種々の酸化ストレスで誘導されることが知られているが、C型肝炎ウイルス感染症では血清TRX値がインターフェロン感受性とよく相関すること、さらにHIVウイルス感染症末期ではその予後判定にも有用であることを明らかにした。また熱傷後にもTRX誘導放出が見られることを明らかにした。一方、種々の酸化ストレス刺激によりTRXは細胞質から核内へ移行することが知られているが、TRXファミリーのひとつであるグルタレドキシンの核内移行は必ずしも認められないことを明らかにした。さらに核内においてTRXがNF-kBやp53などの転写因子のDNA結合活性を増強することを明らかにした。さらに内因性TRXの誘導剤としてテプレノン(geranylgeranylacetone,GGA)を同定した。従来抗潰瘍薬として臨床応用されているGGAは胃粘膜細胞をはじめ肝細胞、リンパ球にもTRXを誘導し、その分泌をも促進する作用を示した。GGAはエタノールなどによる細胞障害を軽減すること、さらにTRX単独の投与あるいは誘導によっても細胞障害軽減作用が認められることから、GGAの細胞保護作用の一部はTRXの誘導を介することが示唆された。以上より、ストレスに対する生体応答機構において、TRXをはじめとするレドックス制御因子によるレドックス制御機構の重要性の一端を明らかにした。
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