研究概要 |
細胞内カルシウム濃度に対する吸入麻酔薬の作用は、増加する、変化がない、低下するなど報告が一定していない。本研究では、麻酔薬の作用機序の理解を深めることを目的とし、セボフルランの細胞内カルシウム濃度に対する作用を調べた。 方法:淡水棲かたつむりLymnaea stagnalisの呼吸中枢のRPeD1を用いた。清潔操作のもとで脳をLymnaeaより取り出した。抗生物質を含んだ生理食塩液によってこれらの脳を洗浄した後,トリプシン処理を行った。RPeD1をガラスピペットにて吸引分離し,接着物質にてコーティングされ、培養液に満たされた培養皿に置いた。RPeD1を細胞内記録しながら,標本に異なる濃度の吸入麻酔薬(セボフルラン1%, 4%)をバブルした生理食塩液を還流させた。カルシウム濃度の測定は,Fura-2を用いた蛍光色素の2波長の吸光度の違いで測定した。細胞を10mV過分極させて同様にセボフルランの作用を調べた。 結果:RPeD1はセボフルラン1%では、細胞内カルシウム濃度は、325±7(nM±SD)から350±8に増加した。同時に記録した活動電位の頻度は、30±12(/min±SD)に増加した。細胞を過分極させ、活動電位の影響を除いても、セボフルランは細胞内カルシウム濃度を増加させた。セボフルラン4%は、一時的に活動電位の頻度を上昇させたが、すぐに抑制した。この活動電位の頻度の上昇とともに細胞内カルシウム濃度が増加した。活動電位は速やかに消失したが、細胞内カルシウム濃度の低下は緩徐であった。セボフルラン4%では、細胞を過分極させても、細胞内カルシウム濃度の変化は少なかった。 結論:セボフルランの細胞内カルシウム濃度に対する作用は、濃度により変化し、セボフルラン1%ではRPeD1の興奮性を変化させ、電位依存性に、およびその他の機序で細胞内カルシウム濃度を上昇させることが考えられた。セボフルランは、高濃度では大きな変化を示さないことがわかった。
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