研究概要 |
平成12年度には2-クロロアデノシンの脊髄での鎮痛効果のメカニズムを解明する為に,NMDAのくも膜下持続注入中の脳脊髄液中グルタミン酸濃度に及ぼす2-クロロアデノシンの影響を調べた。 【方法】1)くも膜下カテーテルの挿入手術:エンフルラン麻酔下にラットの大槽膜を切開し,くも膜下腔を開窓し,二本のくも膜下カテーテル(PE5)と自作のマイクロダイアリーシス用ループカテーテル(マルサラ型)をそれらの先端が腰髄膨大部に位置するよう挿入した(8.5cm)。2)痛覚過敏NMDA痛覚過敏モデルの作成:くも膜下カテーテルの一端からNMDAを180pmol/minの速度で注入し,足底熱刺激装置(UCSD製)を用いて痛覚閾値を5分間隔で90分間測定した。3)脊髄くも膜下マイクロダイアリーシス:上記実験と平行してマイクロダイアリーシスカテーテルの一端から人工髄液を10μl/minの速度で灌流し,他端から回収される還流液を10分毎に採取し,-20℃で冷凍保存した。4)2-クロロアデノシンの効果判定:2-クロロアデノシンをNMDA投与前に投与したときと,NMDA注入開始30分後に投与した場合に分け,脊髄マイクロダイアリーシスを行った。2-クロロアデノシンの投与量は0,10,30,50μgとした。5)グルタミン酸の測定:電気化学検出器を備えた高速液体クロマトグラフィーで測定した。 【結果】l)NMDA(180pmol/min)のくも膜下注入開始10分後には逃避時間が約35%短縮した。この痛覚閾値低下はNMDA注入の間一定に持続し、NMDA注入中止10分後にコントロール値に復した。2-クロロアデノシンは、前投与した場合も、あるいはNMDAくも膜下注入による痛覚過敏が完成した後に投与した場合にも同等に(ED50=25μg)NMDA誘発性痛覚過敏を容量依存性に抑制した。2)2-クロロアデノシンはNMDA誘発性の脊髄CSF中グルタミン酸濃度上昇を抑制するばかりでなく、グルタミン酸濃度をそのコントロール値よりもはるかに低下させた。【結論】以上の結果から、脊髄のアデノシンA2受容体活性化はNMDAを介する痛覚過敏を強力に抑制することが明らかとなった。しかし、NMDA受容体アゴニストやモルヒネはNMDA受容体活性化の後に投与するとその効果が著しく減弱するが、2-クロロアデノシンは効果が減弱しないことから、アデノシンA2受容体を介する鎮痛効果はNMDA受容体アゴニストやモルヒネとはまったく異なるメカニズムによるものと考えられる。
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