研究概要 |
二酸化炭素の増加による各臓器血流量の増加の機序を解明し臨床的意義を知ることを目的として、ラットの腸間膜灌流モデルとモルモツト摘出心で検討した。 ラットの腸間膜血流は二酸化炭素により増加した。血管内皮細胞を除去すると,二酸化炭素分圧上昇による潅流量の増加は有意に抑制された。すなわち内皮依存性の因子によって二酸化炭素による潅流量の増加がもたらされていることが解った。さらに内皮依存性の因子の中からバリウム感受性カリウムチャネルが関与していることを解明した。 次にモルモツト摘出心を用いた二酸化炭素増加による冠血流量増加の機序について検討した。血管内皮細胞を除去すると,二酸化炭素分圧上昇による潅流量の増加は有意に抑制された。冠血流においても内皮依存性の因子が主要な役割を果たしていることが解明された。さらに内皮除去後では内皮除去前にはもたらされなかった灌流量の低下が見られるようになった。これは一酸化窒素合成阻害薬の前処置にても同様の結果が得られた。この結果は内皮の一酸化窒素合成が関与していることと内皮が障害された状態では二酸化炭素分圧を低下させることの危険性を示している。さらに内皮除去後にATP感受性カリウムチャネルを抑制すると潅流量は二酸化炭素により変化を示さなくなった。このことは二酸化炭素による潅流量の増加は内皮依存性の一酸化窒素合成と内皮非依存性のカリウムチャネルの両方が関与していることが解明された。総合すると、腸間膜では内皮依存性のカリウムチャネルの関与が、そして冠血管では主に内皮依存性の一酸化窒素と内皮非依存性のカリウムチャネルが関与していること、そして冠血管障害時には二酸化炭素の低下が冠血流量の低下を招くマイナス要因として働くことが推測された。このことは内皮障害の考えられる虚血性心疾患患者では呼吸管理の上で過換気のもたらす低二酸化炭素血症を避けるべきと思われた。
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