研究概要 |
本研究では、脳虚血に伴う脳神経障害、特に遅発性神経細胞死のメカニズムを中心に解明を進めてきた。なかでも、今回は免疫抑制剤であるCsAおよびFK506を用いて、遅発性神経細胞死の誘発因子であると思われる(a)calcineurinおよび(b)ミトコンドリア内膜の透過性亢進(MPT)に着目して研究を進めるため、雄性Wister rat前脳虚血モデル(2VO+低血圧:内頚・外頚動脈結紮)を用い、10分間の虚血再還流後1,6,12,24時間に沿って脳凍結切片作製と海馬CA1,CA3,DG(dentate gyrus)を取り出し、免疫染色とcalcineurin活性測定を施行した。この結果、calcineurin活性は虚血再還流後1時間で約4倍に達し、6時間後軽度の低下を示したものの12時間後、24時間後と上昇を続け、24時間後は虚血前に比べ約6倍の活性上昇が認められた。一方、CsA、FK506投与群ではcalcineurin活性はほぼ完全に抑制されていた。CsA投与群では遅発性神経細胞死がMRI(Magnetic Resonance Imaging)および、病理組織学的な解析からほぼ完全に抑制されていたが、FK506投与群では約45-50%の抑制効果であった。免疫染色においては虚血24時間後にCA1領域特異的なAKTとBadの脱リン酸化、チトクロームcの細胞質への流出、およびそれに伴うCA1領域細胞の特異的な細胞死が認められた。CsA及びFK506はCA1領域特異的なAKTおよびBadの脱リン酸化を完全に阻害したが、チトクロームcの細胞質への流出はCsAのみに阻害効果が認められた。これらの結果を総合すると、calcineurinを含む情報伝達系は遅発性神経細胞死に必須であるが十分ではなく、CsAの別のターゲットであるミトコンドリアのcyclophilinDやその他のcyclophilinが大きく関与していることが推測された。虚血性神経細胞死におけるCsAの抑制効果がほぼ100%に近いことを考えると、calcineurinおよびimmunophilinを含む情報伝達系の解析は虚血性神経細胞死を理解する上で必須であるばかりではなく、今後、虚血性疾患の臨床応用への道を大きく開くものと考えられる。
|