研究概要 |
β-カテニンはE-カドヘリンなどの接着因子の裏打ち蛋白としてまず認識され、研究されてきた。当教室でも腎癌(Katagiri,A.,et al.Br.J.Cancer,1995.)、移行上皮癌(Wakatsuki,S.,et al.Cancer Lett.1996.)について報告してきた。しかしその一方でβ-カテニンはtumor suppressor gene産物のAPCと結合し、Tcfなどの転写因子と協調作用を起こしてその作用を制御していることもわかってきた。そこで今回我々は泌尿器科癌におけるWntシグナル伝達系での遊離β-カテニンの制御に対するAxinとAPCへの作用について検討している。まず平成11年度は【泌尿器科癌におけるAxinおよびAPCの発現の検討】を行っている。まず一般的に様々な癌腫における、β-カテニンの減弱、β-カテニン遺伝子のmutationはそのmalignant characterと関係する事実は知られている。そこで我々はPCR-SSCPとDNA direct sequencingを用い、移行上皮癌(以下TCC)・腎細胞癌(以下RCC)細胞株及び臨床的材料におけるβ-カテニンの3番exonでのgenetic alterationを検出した。まず臨床例での検討では原発性腎癌症例標本と腎癌転移症例標本及び移行上皮癌症例の標本においてβ-カテニンの発現を検討した。さらにwestern blottingを用い、β-カテニンの発現を検討した。結果)β-cateninの発現を蛋白レベルで見ると膜上での染色性はRCCの15%、TCCの24%で減弱していた。それはRCCではそのstaging・リンパ節転移と、TCCではstagingと多発性と相関していた。しかし全体数が少なく、再発や生存率との相関はみられなかった。今後は正常β-cateninの発現低下によってRCC/TCCのmalignant characterやtumor progressionが引き起こされる可能性についてさらに検討していく。
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