研究概要 |
精巣腫瘍発生の分子生物学的発生機構については不明のことが多く、殊に精巣腫瘍に関わる癌遺伝子、癌抑制遺伝子は同定されていない。われわれは精巣腫瘍におけるX染色体コピーの増加に着目し同染色体上の遺伝子変化が精巣腫瘍発生に関わる可能性を検索し平成11年度には以下の結果を得ている。まずわれわれの研究室で保存しているヒト精巣腫瘍組織より抽出したRNA、担癌患者末梢リンパ球より得られたRNAおよび当教室で前立腺腫瘍の際に去勢術を施行した精巣組織より得られたRNAをコントロールとして用いX染色体上の遺伝子(XIST,Cancer/Testis Antigens genesほか)について発現異常の検討をおこなった。XIST遺伝子については正常精巣では発現が認められないものの多くの精巣腫瘍では発現を認めこの結果はLooijengaらの報告と一致した。つまり精巣腫瘍においてはX染色体コピーの増加が頻回に認められるがこれらの付加X遺伝子については正常のcounting mechanismが働きX染色体の不活化をおこなっている可能性が示唆された。さらにX染色体上に数多く存在し正常組織では精巣特異的に発現を認めるCancer/Testis Antigens genesのうちMAGE(A),MAGE(B),GAGE,PAGE-1,HOM-MEL-40,NY-ESO-1,LAGE-1の発現も検討したところ精巣腫瘍ではむしろこれらCTA遺伝子の発現欠損がみられこの欠損パターンはむしろ精巣腫瘍の組織分化に依存している傾向が見られた。平成12年度には各症例のCGHを行うとともにXIST遺伝子に依存もしくは依存しない精巣腫瘍感受性遺伝子の検索を行う予定である。
|