研究概要 |
HGFは細胞の運動に影響を与えるサイトカインであるが、精漿中に大量に存在し,またその受容体であるc-metが精子に発現されているため、精子の運動の制御に関与している可能性があると考え,正常精子にrecombinant HGFを加え,その運動能を経時的にCASA(Computer Asisted Semen Analyzer)で解析した。HGFは精漿中に含まれる生理的濃度(1,5ng/ml)で精子の運動率,前進精子の割合,精子運動速度,前進精子速度をあげたが,ばらつきが大きく、統計的有意差は得られなかった。精子が卵に至る精子運動の走化性に関与する可能性を考え,排卵期の子宮頚管粘液のHGF濃度を測定したが,2.44±2.65ng/mlで,精漿中のHGF濃度と差を認めなかった。精子は卵近くに至るとhyper activationと呼ばれる特異な運動を行うが、HGFは精子運動の質(運動の直進性,首振り運動の周波数)には影響を与えなかった。また,不妊患者(n=83)の精漿中のHGF濃度を測定したが,患者の精液量,精子数,精子運動率とは全く相関を認めなかった。 以上より,HGFは精子の運動に影響は与えるものの,その運動を制御する主たる因子ではないことが確認された。現在,HGFは精子の精巣上体での成熟に関与するのではないかと考えられている。 (以上,American Journal of Reproductive Immunology in press)
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