β-microseminoprotein[β-MSP、別名prostate secretory protein of 94 amino acids(PSP94)]は主要な前立腺分泌蛋白のひとつである。 前立腺癌における第3エクソン部分を欠失した短いβ-MSP mRNA(PSP57 mRNA)の発現の意義を明らかにする目的で、PSP57mRNAを特異的に認識できるoligo-DNAプローブを設計し、特異性を確認した。非放射性in situ hybridizationを用いて、培養前立腺癌細胞(PC-3、LNCaP、DU-145)における、β-MSPおよびPSP57mRNAの発現を調べた結果、LNCaPでは両方のmRNAの強い発現が確認されたが、他の細胞での発現は弱く、細胞間で差がみられた。次に、前立腺癌組織で2つのmRNA発現を検討したが、PSP57mRNAの発現が確認できず、それ以上の臨床的検討を断念した。 163例の前立腺全摘標本を用いてβ-MSPの発現をprostate specific antigen(PSA)発現と比較検討した。その結果、PSAに較べてβ-MSP発現はアンドロゲン依存性が低いこと、および組織学的悪性度の高い腫瘍ではアンドロゲン除去下でβ-MSPの発現が高くなることから、β-MSPの発現はアンドロゲンを介さない経路で制御されていることが示唆された。 RT-PCRおよびin situ hybridizationを用いたラット前立腺におけるβ-MSP遺伝子発現の検討では、β-MSPmRNAはヒト前立腺の辺縁域に相当するラット前立腺背側葉に特異的に発現し、アンドロゲン除去の影響を受けにくいことが明らかとなった。以上より、ホルモン療法抵抗性前立腺癌における遺伝子治療にβ-MSP遺伝子を応用できる可能性が示唆された。
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