研究概要 |
近年、生体内においてnitric oxide(NO)が中枢および末梢神経系のさまざまの生理機能や疾患の病態と深く関与していることが示されている。我々はNOの消去作用を有する安定で低毒性の有機化合物(imidazolineoxyl N-oxides;PTIO)を見い出し、NOの役割について検討してきた。一方、近年タンパク質の翻訳後修飾反応物としてのadvanced glycation end pr oducts(AGE)が生体内に蓄積し、加齢や糖尿病性合併症などに関与することが報告されており、我々もAGEの生体内局在や主要構造体の解析を行ってきている。本研究ではPTIOを用いて膀胱機能におけるNOの生理的役割を検討するとともに、正常および脊髄損傷ラットの膀胱平滑筋を用い、その弛緩反応におけるNOの役割とAGE形成との関連を検討した。。 1)機能実験:正常および脊髄損傷ラットの膀胱より平滑筋条片を作製し、筋浴槽内に懸垂固定して張力変化を記録した。膀胱平滑筋条片はCys-NO(NO donor),α-Latr otoxin(NO r eleaser)投与や経壁電気刺激(EFS)により用量依存性に弛緩した。さらに条片には臓器用透析プローブを貫通させ透析液を潅流させながらEFSを行い、透析液内のNOの測定でも用量依存性にNO産生量が増加し、NO消去剤(PTIO)およびNOS阻害剤(L-NNA)の前投与は平滑筋弛緩反応およびNO生成量を有意に抑制した。脊髄損傷ラットの方がNOによる弛緩反応およびNO産生量は正常ラット群より有意に低かった。 2)AGE免疫組織染色およびAGE形成量の測定:膀胱を細切しパラフィン包埋後薄切りしアセトン固定、メタノール処理後、過酸化水素水に浸漬し内因性ペルオキシダーゼ活性をブロックし、一次抗体としてマウスモノクロナール抗AGE抗体を用い、2次抗体としてはビオチン標識マウスlgG抗体を反応させ、アビジン-ビオチン標識ペルオキシダーゼ、DABを用いて発色させた。AGE形成量は膀胱迅速凍結組織を脱脂洗浄後塩酸中で酸加水分解を行い、アミノ酸分析器に供し、標準物質としてhippuryl-CMLを使用し組織中CML含量を定量しAGE形成量を観察した。この結果、AGE形成量は脊髄損傷ラットにおいて正常群より有意に増加しており、NO産生量とAGE形成量は有意の負の相関関係を示した。 以上の結果より、膀胱の弛緩にはNOがある程度関与しており、この弛緩反応は脊髄損傷ラットにおいて減弱し、これには膀胱でのAGEの形成の増加が関与している可能性が示唆された。
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