近年、生体内においてnitric oxide(NO)が中枢および末梢神経系のさまざまの生理機能や疾患の病態と深く関与していることが示されている。我々はNOの消去作用を有する安定で低毒性の有機化合物(imidazolineoxyl N-oxides;PTIO)を見い出し、NOの役割について検討してきた。一方、近年タンパク質の翻訳後修飾反応物としてのadvanced glycation end products(AGE)が生体内に蓄積し、加齢や糖尿病性合併症などに関与することが報告されており、我々もAGEの生体内局在や主要構造体の解析を行ってきている。前年度の検討を踏まえて、本年度は摘出ヒト膀胱平滑筋におけるNOおよびAGEの役割について検討した。 膀胱悪性腫瘍にて膀胱全摘出術を施行した12例(52〜81歳)のヒト膀胱組織を細切してパラフィン包埋後6μmに薄切しアセトン固定、メタノール処理後、3%過酸化水素水に浸漬し内因性ペルオキシダーゼ活性をブロックした。PBSで洗浄後、一次抗体としてマウスモノクロナールあるいはウサギポリクロナール抗AGE抗体を用いて4℃、一昼夜反応させた。2次抗体としてはビオチン標識マウスIgG抗体または抗ウサギIgG抗体を反応させ、アビジン-ビオチン標識ペルオキシダーゼ、DABを用いて発色させた。AGE形成量は膀胱迅速凍結組織を脱脂、洗浄後6N塩酸中で110℃、24時間酸加水分解を行い、アミノ酸分析器に供した。標準物質としてhippuryl-CML(Nε-carboxymetyl-lysin)を使用し組織中CML(AGEの主たるエピトープ)含量を定量しAGE形成量を観察した。この結果、ヒト膀胱にはAGEの存在が確認された。AGE形成量は加齢とにより増加し、年齢との間に有意の正の相関関係が認められた。また、microdialysis法とHPLCを組み合わせて測定した、経壁電気刺激による膀胱平滑筋からのNO放出量は加齢とともに減少が認められ、年齢との間に有意の負の相関関係が認められた。さらに、AGE形成量とNO放出量とのあいだには、有意ではないものの負の相関が認められた。 これらの結果より、ヒト膀胱平滑筋では加齢によるAGE形成量の増加が見られ、これがNO放出量を抑制することで、加齢に伴う膀胱機能の変化に関係している可能性が推察された。
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