下部尿路機能の生理、病態生理においてnitric oxide(NO)は重要な役割を演じている。また、タンパク質の翻訳後修飾反応物としてのadvanced glycation end products(AGE)が生体内に蓄積し、AGEレセプターを介しいろいろな細胞応答を惹起したり、フリーラジカルを生成することにより、加齢や各種病態に関与することが報告されてきている。本研究においては膀胱機能におけるNOとAGEの病態生理学的役割について検討した。 免疫組織染色により、ラット・ヒト膀胱平滑筋にはNADPH-diaphorase陽性および神経性NOS陽性の神経が観察され、NO分泌神経が存在することが確認された。しかしこの神経密度は尿道や前立腺組織に比較すると有意に少なかった。 家兎膀胱平滑筋を用いた機能実験では、カルバコールにより前収縮させた平滑筋条片は経壁電気刺激により有意な弛緩反応は示さなかったが、経壁電気刺激による平滑筋からのアセチルコリンの放出量はNOS阻害剤(L-NNA)の投与により有意に増加した。この結果は膀胱においてNO作動性神経から放出されるNOはコリン作動性神経からのアセチルコリンの放出量を抑制的に調節している可能性が考えられた。この結果から、膀胱におけるNOは排尿サイクルのうち主に蓄尿期に作用して、膀胱容量を増加させ、detrusor instabilityの発生を抑制している可能性が示唆された。 摘出ヒト膀胱平滑筋にはAGEの形成が確認され、これは加齢に伴い増加し、年齢との間に有意の正の相関関係があることが判明した。また、加齢に伴い経壁電気刺激による膀胱平滑筋からのNOの放出量は有意に減少しており、神経性NOS陽性神経も減少が観察された。さらに、AGE形成量とNO放出量の間には負の相関関係がみられた。また脊髄損傷ラットの膀胱では、対照ラットの膀胱に比較して、AGE産生量が増加しており、経壁電気刺激による膀胱平滑筋からのNOの放出量は有意に減少していた。 これらの結果は、NOおよびAGEが膀胱の生理・病態機能に深く関係している可能性を示唆するものと考えられた。しかしその相互関係のメカニズムの解明にあたってはさらなる研究が必要と考えられた。
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