研究概要 |
中枢神経障害のモデルとして胸髄での脊髄損傷ラットと脳梗塞ラットを用いて脳脊髄内アミノ酸系神経伝達物質濃度と血清アミノ酸濃度をキャピラリー電気泳動装置で経時的に測定し,障害からの回復とアミノ酸濃度との関係を検討した。脊髄損傷ラットでは脊髄損傷直後の弛緩性麻痺による尿閉状態では腰仙髄内グリシンが増加したが、痙性麻痺による排尿筋過反射ではグリシンが減少した。腰仙髄内グルタミン酸濃度に変化はなかった。胸髄損傷ラットの腰仙髄のグリシンの低下は数週遅れて血清グリシン濃度に反映された。 脳梗塞急性期ラットの頻尿状態では脳脊髄のグルタミン酸が増加し,脳内グリシンが低下したが,慢性期の頻尿正常化状態では脳脊髄のグルタミン酸も低下した。脳梗塞ラットの経時的な血清グルタミン酸濃度に大きな変化はなかったが,血清グリシン濃度は慢性期に低下した。 仙髄髄腔内への薬剤投与実験では,グルタミン酸投与は腰仙髄内グリシンを増加させ,グルタミン酸受容体遮断薬の投与はグルタミン酸とグリシンを減少させた。グリシンの投与はグルタミン酸を減少させた。 したがって,脳脊髄のグルタミン酸ニューロンはグリシンニューロンを活性化し,グリシンニューロンはグルタミン酸ニューロンを抑制している。グルタミン酸ニューロンとグリシンニューロンの活動性のバランスの乱れが運動障害や排尿障害と関連しているが,障害からの回復にはグルタミン酸とグリシンニューロンの活動性のバランスまが重要である可能性が考えられた。また,脳脊髄中のグリシン濃度は血清グリシン濃度に反映された。 現在,in situ hybridzation法によるグルタミン酸産生酵素やグリシン産生酵素のmRNA発現実験で,これらアミノ酸系ニューロンの増減や活動性の状態を検討中である。
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