精子形成研究における大きな障害の一つは雄生殖細胞が培養できないことである。分子生物学の進歩により多くの遺伝子が単離・同定され、その機能も解明されつつある。精子形成においては数多くの遺伝子が発現していることが知られているが、それらの遺伝子の機能を解析する際に培養条件下での検討ができないことは非常に不利である。そのような中で1994年に開発された精原細胞移植法は精子形成研究に新しい技術を提供した。すなわちドナーマウスの精巣から採取した精巣細胞(精原細胞を含む)をレシピエントマウスの精巣内に注入移植することによりドナーマウス由来の精子形成がレシピエントマウス精巣内で生じる。これにより精原細胞、もしくはレシピエント精巣に選択的に処置を加えることができることになった。また精原細胞の培養が可能になれば遺伝子導入や改変による精子形成への影響を調べられるようにもなる。今回の我々の研究はまず精原細胞移植にGFPマウスを用いることで移植細胞数の算定を可能とし、発生コロニーの観察・解析をより簡便化することであった。GFPマウスの精巣細胞は励起光下で発光するので、非GFP細胞との混合細胞浮遊液中でもGFP細胞のみをカウントすることができる。すなわちGFPマウスを用いることにより移植-解析系を定量化することが可能となった。この定量化に基づいて、精原細胞の増殖・分化に及ぼす影響を検討した。LH-RHアナログは精子形成に抑制的に作用するが、精子形成傷害後の再生には促進的に作用することが報告されており、我々もラットを用いた実験でそれを確認している。移植系においてこの現象を検討した結果、LH-RHアナログは精原細胞のアポトーシスを抑制することでコロニー形成を促進することが示唆された。
|