精原細胞移植技術の精子形成研究への応用は、生殖細胞と体細胞を別々に処置できること、移植後初期に精原細胞の増殖・分化を明瞭に観察できること等々の利点を持っている。本研究においては精原細胞移植の系をより定量的なものに近づける試みとそれを用いた解析を行った。まず、GFPをマーカー遺伝子としてもつトランスジェニックマウスをドナーマウスとして用い、精原細胞移植実験を行った。GFPマウスの利点は励起光を当てることにより細胞を生きた状態で識別することができることにある。よってレシピエントマウスの精巣から回収したGFP細胞を再度別のマウスに移植する継代移植実験が可能となった。現在までのところ4代に渡り継代が継続されている。またそれらのデータの解析結果から精原幹細胞は移植後のコロニーの拡大に伴なって増加してゆき、その自己増殖速度は移植後100日間で約30倍であることが推計された。またその自己増殖は移植後1年以上にわたり衰えることなく維持されることが観察された。精原細胞の増殖を促進する精巣内微小環境は重要である。今回の実験ではレシピエントマウスにLH-RH analogue(Leuprorelin acetate)を投与して精巣内ホルモン環境を変化させた。その状況で精原細胞移植を行い、ドナー精原細胞の広がり、精子形成の状態から精巣内環境が精原細胞の増殖・分化に及ぼす影響を詳細に検討した。Leuprorelinを投与して精巣内ホルモン環境を変化させたレシピエントマウスでは精細管基底膜上に定着した精原細胞数(密度)が移植後早期(4週間め)に増加していることが観察された。このことはLeuprorelin投与により精原細胞の増殖が促進、もしくはアポトーシスが抑制される推測される。
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