研究概要 |
化学染料工場においてベンチジンなどの芳香族アミンに曝露し、その後尿路上皮癌を発症した職業性尿路上皮癌は、自然発生尿路上皮癌と比較してさまざまな生物学的行動が異なることを報告してきた。しかし、従来の病理組織学的検査ではその差を特定できなかった。 本研究では、自然発生尿路上皮癌と職業性尿路上皮癌組織において免疫組織染色によるp53過剰発現とDNA sequence analysisによるp53遺伝子突然変異を検討し、両者における差を検証した。 p53過剰発現陽性率は自然発生尿路上皮癌(123症例)で42.3%であるのに対し、職業性尿路上皮癌(27症例)では66.7%と有意に高い陽性率を示した(p=0.02)。p53遺伝子変異は、自然発生尿路上皮癌29例中2例(exon 6 codon 205,A to G ; exon 8 codon 271,G to A)で、職業性尿路上皮癌21例中5例(exon 8 codon 271,G to A2例;exon 7 codon 239,A to G ; exon 5 codon 149,C to T ; exon 5 codon181,G to C)でみとめられた。有意差は見られなかったが、職業性尿路上皮癌においてp53遺伝子突然変異の頻度が高かった。また、p53遺伝子変異のexon 7 codon 239,A to Gとexon 5 codon 149,C to Tとexon s codon181,G to Cは、職業性尿路上皮癌においてのみ見られることより、これは多量の芳香族アミンに曝露されて発生した尿路上皮癌に特徴的な遺伝子変異かも知れない。
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