研究概要 |
化学染料工場においてベンチジンなどの芳香族アミンに曝露し、その後尿路上皮癌を発症した職業性尿路上皮癌は、自然発生尿路上皮癌と比較してさまざまな生物学的行動が異なることを報告してきた。しかし、従来の病理組織学的検査ではその差を特定できなかった。 本研究では、多量の発癌物質に曝露された集団のなかでも発癌するものとしないものがあることから、発癌に関わる労働環境因子と宿主特異的因子の差を分子疫学的に解析した。続いて、自然発生尿路上皮癌と職業性尿路上皮癌組織において免疫組織染色によるp53過剰発現とDNA sequence analysisによるp53遺伝子突然変異を検討し、両者における差を検証した。 1.芳香族アミン曝露者におけるGlutathion S-transferase M1(GSTM1)遺伝子の研究: 芳香族アミン曝露者のなかで、癌発症群と発症のない群のGSTM1遺伝子多型を検討し、発癌者においてGSTM1遺伝子欠損者が多い傾向を認めた。労働環境因子とGSTM1遺伝子の発癌に関わる影響は、小規模工場での就労、就労期間などの労働環境因子がGSTM1遺伝子欠損を凌駕した。 2.芳香族アミン曝露者におけるp53遺伝子変異の検討: p53過剰発現陽性率は職業性尿路上皮癌では自然発生尿路上皮癌に比べ、有意に高い陽性率を示した。有意に高い陽性率を示した(p=0.02)。職業性尿路上皮癌ではp53遺伝子変異の頻度は自然発生尿路上皮癌に比べ高い傾向を示した。p53遺伝子変異のexon7codon239,AtoGとexon5codon149,CtoTとexon5codon181,GtoCは、職業性尿路上皮癌においてのみ見られることより、これは多量の芳香族アミンに曝露されて発生した尿路上皮癌に特徴的な遺伝子変異かも知れない。
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