研究概要 |
核DNAの酸化的損傷を受けた男性不妊の精子が、受精後の胚発生に悪影響を与える可能性が危惧されている。我々は、男性不妊患者の精子の酸化的DNA損傷が正常コントロールと比較して有意に増加していること、またそのようなストレスが精細胞のアポトーシスの重要なメディエーターとなっていることを示してきた。今回の研究では、精細胞のDNA障害およびアポトーシスのメカニズムについてさらに検討を加えると共に、受精卵の初期発生におけるFas-Fas ligand系の発現についての検討も行った。得られた結果は、以下の通りである。 1.停留精巣モデルでは精細胞が熱ストレスによってアポトーシスを起こして消滅するが、この時に精細胞の温度上昇に伴ってp53が細胞質から核内に移行する。また、精巣には特異的なheat shock protein 105(HSP105)はp53と熱依存性に結合、解離(32.5度で結合し37度で解離)する。 2.xanthine oxidaseの阻害剤は、ラット停留精巣モデルの精細胞のアポトーシスによる細胞死、およびin vitroで熱ストレスによって惹起される精細胞のアポトーシスを抑制する。 3.FasのmRNAは、ラットでは2細胞期胚に、ヒトでは4細胞期胚に発現している。一方、Fas ligandのmRNAは,ラットでは未受精卵、1および2細胞期胚に、ヒトでは2、4細胞期胚に発現している。 以上から、p53が精細胞のアポトーシスによる細胞死に関与しHSP105が精巣内のp53の結合蛋白としてp53の代謝を担っている可能性があること、精細胞のアポトーシス抑制にxanthin oxidase抑制剤が有効であること、ヒトとラットの初期胚ではFasおよびFas ligandの遺伝子が同時に発現している細胞期がありそれがアポトーシスのシグナルとなっている可能性があること、が明らかとなった。
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