研究概要 |
ヒトにおいて体外受精の際に得られる卵巣顆粒膜細胞を検討し,そのアポトーシス小体出現率が低いほど卵の質が良好(妊娠に至りやすい)であることを報告して評価を得てきた.アポトーシスにかかわる因子分析を細胞膜および細胞質内伝達情報機構との関連を探って行くことで,新しい治療薬や治療法が開発される可能がある.実験動物として,自然周期の成熟雌マウス(B6C3系)を排卵直前で麻酔後に屠殺して卵巣を摘出した.4%パラフォルムアルデヒドで固定分切し,電顕用と免疫組織化学用に固定した.電顕標本で様々な発育段階の卵胞を検察し,閉鎖卵胞におけるアポトーシスの存在を確認した.その後,アポトーシスの伝達機構の一つであるFas-Fasリガンドでの検討を行った.Fas抗原は通常細胞膜上にあり,Fasリガンドと結合するとそこから細胞内にシグナルが伝達され,細胞核のアポトーシスヘの動きが始まるとされる.マウス卵胞では,卵胞の中心的な存在である卵の細胞膜には,閉鎖卵胞においてもFas抗原は免疫組織学的方法で検出されなかった.一方,顆粒膜細胞の細胞膜上には,閉鎖卵胞では強く染色された.また,Fasリガンドも同様に強く染まっていた.そのことは,成熟卵巣での卵胞閉鎖機序が顆粒膜細胞側から起こってきていることを示唆した.卵胞組織上のin situ hybridizationでは,顆粒膜細胞が自らFas抗原を提示してはいるが,Fasリガンドは卵の方から産生されていることを示唆した.つまり,卵胞の運命を握っているのが,発育卵巣でも成熟卵巣でも実は卵であることを示唆している.顆粒膜細胞の細胞内シグナル伝達機構は,プロテインC kinaseを介するが,それをブロックしてもアポトーシスを起こすものも認められ,Fas-Fasリガンド以外の細胞膜上のシグナル伝達系の存在も初めて示唆された.今後これらの系も同定を行って行きたい.
|