妊娠に起因した睡眠障害に関する基礎的研究

2000 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 11671600
• 研究機関: 東京医科歯科大学
• 研究代表者: 木村 昌由美 東京医科歯科大学, 生体材料工学研究所, 助手 (40216859)
• キーワード: 妊娠 / 睡眠障害 / ホルモン / サイトカイン / ラット / コロニー刺激因子 / プロラクチン / 成長ホルモン

研究概要

今年度は、1)妊娠経過に特異的な生殖器由来のサイトカインの作用を中枢的に阻害することを試み、2)妊娠によって変化した睡眠パターンがどのように影響を受けるかを調べた。また、昨年度から継続しているプロラクチン分泌誘発ペプチド(PrRP)の睡眠修飾作用について、様々な内分泌的パラメータ変動との相関を分析した。
1)特に妊娠の開始時に必要とされる顆粒球・マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF)に着目し、その抗マウスGM-CSF抗体の自然睡眠に対する作用を解析した。暗期連続脳室内投与を雄ラットに行うと、GM-CSF(10μg/100μl/10h)は投与日には何の作用も示さないが、翌日の暗期にノンレム睡眠(17%)・およびレム睡眠(36.1%)の有意な減少をもたらした。
2)妊娠ラットを2群に分け、実験群には抗マウスGM-CSF抗体を、対照群にはIgG抗体をそれぞれ妊娠開始日から4日間、連続して脳室内投与を行った。対照群と比較し、実験群の睡眠量は処理2日めより有意に減少し、妊娠初期4日間の暗期睡眠量は全体でノンレム睡眠が76.9%に、レム睡眠が54.0%に抑制された。この結果により、GM-CSFは妊娠初期の過剰睡眠に関与することが示唆される。
3)低用量のPrRPによるレム睡眠誘発作用は、プロラクチン分泌の上昇をともなうことが昨年までの実験で明らかとされた。しかし、今年度の実験では、in vitroの実験系でPrRPのプロラクチン分泌能は確認されず、in vivoでみられた作用はおそらくその他の経路(例えばオキシトシン)を介したものと考えられる。また新たに、PrRPの成長ホルモン分泌抑制作用がin vivoの実験系で確認され、これはPrRPがソマトスタチン分泌を刺激した結果と考えられる。

研究成果

• [文献書誌] Zhang,S.Q.: "Effects of prolactin-releasing peptide (PrRP) on sleep regulation in rats."Psychiat.Clin.Neurosci.. 54. 262-264 (2000)
• [文献書誌] Kimura,M.: "Granulocyte-macrophage colony-stimulating factor (GM-CSF) modulates rapid eye movement (REM) sleep and non-REM sleep in rats."J.Neurosci.. 20. 5544-5551 (2000)
• [文献書誌] Kimura,M.: "Granulocyte-macrophage colony-stimulating factor is involved in the regulation of sleep during pregnancy."Neurosci.Res.. 24. S38 (2000)
• [文献書誌] Kimura,M.: "Anti-GM-CSF antibody suppresses pregnancy-enhanced sleep in rats."J.Sleep Res.. 9(suppl 2). 100 (2000)
• [文献書誌] Kimura,M.: "Pregnancy-enhanced sleep is suppressed by icv-administered anti-GM-CSF."Soc.for Neurosci.Absts.. 26. 1516 (2000)
• [文献書誌] Kimura,M.: "A pregnancy-related sleep-inducing peptide."3^<rd> Congress of Asian Sleep Society, Prog.& Absts.. A54 (2000)
• [文献書誌] 木村昌由美: "脳の科学22巻特集:生物時計"星和書店. 596 (2000)
• [文献書誌] 木村昌由美: "BME14巻 特集:ホメオスタシスと脳機能"日本ME学会. 77 (2000)