本研究の目標は予後不良の卵巣癌において、その原因である化学療法抵抗性のメカニズムを特にアポトーシスとの関連に注目して解明し、将来の遺伝子治療の分子標的を同定することにある。近年、化学療法の治療効果は癌細胞に細胞死(アポトーシス)を誘導することによって得られることが明らかになり、このアポトーシス誘導のメカニズムが注目されている。我々はアポトーシス誘導因子のひとつであるbax遺伝子に注目し、卵巣癌における発現を調べたところ、bax発現の低い卵巣癌は有意に予後不良であった。また、卵巣癌細胞株でもシスプラチンによって誘導されるべきbax発現が障害されているものがあることが示され、卵巣癌細胞が薬剤抵抗性を獲得するメカニズムに細胞内アポトーシスシグナルが関与していることが示唆された。そこでアデノウイルスベクターを用いてbax遺伝子を卵巣癌細胞に導入することを試みた。この結果、bax発現アデノウイルスは卵巣癌に効率的にアポトーシス感受性を誘導し、シスプラチンやタキソールといった化学療法剤との併用効果も得られることが明らかとなった。このような効果は、シスプラチン耐性の細胞株でも得られている。また、卵巣癌坦癌マウスにおける検討でも、bax発現アデノウイルスは有意な腫瘍縮小効果を示し、化学療法剤との併用効果も認めた。以上のことから、bax発現アデノウイルスによる遺伝子治療は卵巣癌における制癌剤耐性の有力な手段となる可能性が示されつつある。
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