研究概要 |
我々は、白血球分化抗原の一つであるCD9分子が、脱落膜に接し浸潤を停止しているExtravillous trophoblast(EVT)に強く発現しており、EVTの培養系に抗CD9抗体を作用させることにより、これらの細胞の浸潤が再開することを見いだした。このことはCD9分子が細胞浸潤の制御に深くかかわっていることを示唆している。さらに我々は、他の女性生殖器の検索により子宮の内膜腺上皮細胞にもCD9分子が特異的に発現していることを見いだした。そこで本研究は、子宮内膜腺上皮細胞由来の子宮内膜癌につき、CD9分子の発現とその浸潤に対するCD9分子の作用を解析することを目的とした。 まず正常子宮内膜上皮における月経周期におけるCD9の発現の変化につき検討したところ、CD9の発現強度には変化は認められず恒常的な発現が認められた。次に子宮内膜上皮におけるCD9とIntegrinとの関連につき検討するために、子宮内膜組織から得た蛋白に対し抗CD9抗体を用いた免疫沈降法を行い、共沈したCD9分子に結合する分子をWestern blott法により検討したところ、Integrin α3及びα6がCD9分子と結合していることが明らかとなった。 次に子宮内膜増殖症と子宮内膜癌についてCD9の発現を検討したところ、子宮内膜増殖症では強い発現が認められたのに対し、浸潤能を有する子宮内膜癌ではその発現が減弱していた。また、子宮内膜癌細胞株RL952、Ishikawaに抗CD9抗体を作用させると、これらの細胞の浸潤が増強した。今後、子宮内膜癌浸潤制御に対するCD9分子の役割とIntegrinのその関与につき更に検討を行う予定である。次に子宮内膜癌細胞株RL952にIntegrin α3、β1またはα6に対する中和抗体を添加したところIntegrin α3,β1及びα6の機能を抑制することによりRL952細胞の浸潤能が抑制された。さらに、抗Integrin中和抗体により浸潤能の抑制されたRL952細胞に抗CD9抗体を添加すると抗Integrin α3抗体により抑制されたRL952細胞の浸潤能が回復した。一方、抗Integrin α6,β1抗体により抑制された細胞浸潤能は回復しなかった。 以上の結果より、子宮内膜癌細胞の浸潤に深く関与するCD9分子はIntegrin α3,β1及びα6に結合しており、CD9分子はIntegrin β1,α6を介した浸潤抑制機構に関与していることが示された。
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