研究概要 |
1)妊娠中のmelatonin産生能は妊娠中期より後期にかけて増加することが示された。このmelatonin産生能の増加は松果体でのmelatonin産生酵素であるhydroxyindole-O-methyltransferase(HIOMT)活性の増加にによることが示唆された。卵巣摘除ラットを用いた検討ではprogesteroneは用量依存的にHIOMT活性を増加させることから、妊娠中のmelatonin産生能の増加は胎盤より著明な分泌増量のみられるprogesteroneの影響が強く関与していることが示唆された。 2)妊娠中毒症では末梢血管は冠動脈硬化症と極めて類似した病理所見(acute atherosis)を示し、この動脈硬化症の発症には酸化LDLが重要な要因となる。また、近年、高homocysteine血症がFree radicalを介して動脈硬化発症のリスクファクターとされ、妊娠中毒症においてもその血中濃度は高いとされている。 今回の検討により、酸化LDL、homocysteine添加により臍帯動脈血管のトーヌスは増加し、セロトニンおよびKClによる収縮は著明に増強されることが明らかとなった。さらに、この酸化LDL、homocysteineのvasospastic作用は細胞障害活性の強いhydroxyl radicalを介して、血管内皮細胞でのnitric oxide産生を障害すると同時に、血管平滑筋のCaチャンネルを活性化しCa動員を増量させる機序に基づくが示唆された。さらに、酸化LDL、homocysteineのvasospastic作用はmelatoninを前投与することで用量依存的に軽減されることが示された。 3)Melatoninを母体に投与することでラット胎仔脳内SOD,glutathione peroxidase活性、ヒト胎盤中のglutathione peroxidase活性は増加することが示された。 4)虚血にひきつずく再灌流は内因性にFree radicalを大量に産生する。妊娠ラット子宮-卵巣動脈虚血-再灌流モデルを用いた本研究により、胎仔脳内および胎盤中の脂質過酸化,DNAの酸化的損傷は亢進し、ミトコンドリア分画の呼吸活性は著明に障害されることが示された。さらに、経母体的にmelatoninを前投与することで虚血-再灌流によるこれらの酸化的障害は軽減されることが示された。 以上、melatoninはFree radicalに対する直接的なscavenger作用に加え、抗酸化酵素活性を増加することで強力な抗酸化作用を有することが明らかとなった。さらに、妊娠中毒症や胎児仮死などFree radicalの産生亢進がその病態形成に強く関与している疾患に対してのmelatoninの抗酸化剤としての経母体的治療の可能性が示唆された。
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