研究概要 |
卵巣癌は腹膜播種を特徴とする疾患である。我々は卵巣癌細胞株を用いてHGF刺激による細胞運動能・浸潤能への影響,及びシグナル伝達経路について検討した.HGF受容体蛋白発現をウエスタンブロット法で解析したところ、卵巣癌細胞株8株中6株でHGF-Rの過剰発現を認めたが、ELISA法による測定では、各細胞株培養液上清中に有意なHGFの産生は認めなかった。Boyden chamberを用いたHGF刺激による細胞運動能・浸潤能への影響を検討では、8株中6株で促進を認め、HGF刺激によりHGF-Rのリン酸化、MAPKの活性化の亢進も認めた。ras dominant negative(ras DN)を発現するアデノウィルスを感染させると、HGF刺激によるMAPKの活性化を抑制し、細胞運動能・浸潤能も抑制した.さらにMEK阻害剤とP13-K阻害剤を用いて解析したところ両薬剤ともにHGF刺激による細胞運動能・浸潤能を抑制したがP13-K阻害剤の効果の方が優位であった。以上よりHGFR→rasのシグナル伝達経路は卵巣癌細胞の運動能・浸潤能に関与することが示唆された。 次にHGF→Rasの下流で作用する因子として、MMP2、9の活性をgelatin Zymograohyにより解析した。HGF刺激により4株中2株でMMP2活性の亢進が見られたがMMP9活性には変化がなかった。P13-K阻害剤の添加により細胞運動能、浸潤能と同様にMMP2活性も抑制された。以上により1)HGFはRasを介して卵巣癌細胞の運動・浸潤能を亢進することが示された。2)Rasの下流で,HGF刺激による卵巣癌細胞の運動・浸潤能の亢進はRas-P13Kを介するシグナル伝達が優位に関与し、MMP2が標的の一つであることが示唆された。Ras-MAPK経路の関与は部分的であった。
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