研究概要 |
1)卵巣癌の進展に関与するシグナル伝達系 我々は卵巣癌細胞株を用いてHGF刺激による細胞運動能・浸潤能への影響,及びシグナル伝達経路について検討した.HGF受容体蛋白発現をウエスタンブロット法で解析したところ、卵巣癌細胞株8株中6株でHGF-Rの過剰発現を認めたが、ELISA法による測定では、各細胞株培養液上清中に有意なHGFの産生は認めなかった。Boyden chamberを用いたHGF刺激による細胞運動能・浸潤能への影響を検討では、8株中6株で促進を認め、HGF刺激によりHGF-Rのリン酸化,MAPKの活性化の亢進も認めた。ras dominant negative(ras DN)を発現するアデノウィルスを感染させると、HGF刺激によるMAPKの活性化を抑制し、細胞運動能・浸潤能も抑制した。さらにMEK阻害剤とPI3-K阻害剤を用いて解析したところ両薬剤ともにHGF刺激による細胞運動能・浸潤能を抑制したがPI3-K阻害剤の効果の方が優位であった。以上よりHGFR→rasのシグナル伝達経路は卵巣癌細胞の運動能・浸潤能に関与することが示唆された。 2)子宮体癌の発生に関与するシグナル伝達系 子宮内膜の機能制御におけるRas蛋白の役割を分化・増殖・アポトーシスについて解析した。 1.c-AMP-PKAの経路は子宮内膜細胞の腺上皮細胞への分化を促進した。Ras蛋白はPKAを活性化し、この作用を増強した。 2.Ras-MEK-MAPK、Ras-P13K-AKTの経路は共に、子宮内膜細胞の増殖を促進させた。 3.活性化型K-Ras蛋白はestrogen receptor機能を亢進し、progesterone receptorの発現を抑制することにより、造腫瘍能を獲得した。 4.活性化型K-Rasはアポトーシスを誘導し、H-Rasは回避させた。また、アポトーシス回避にはRas-P13K-AKTの経路が作用していた。
|