研究概要 |
ヒト子宮内膜癌ではPTEN遺伝子の変異が高率に認められ、子宮内膜異型増殖症においても同遺伝子の変異が報告されている。本研究課題は、Cre-loxP systemを用いてマウス子宮内膜に選択的にmurine(m)PTEN遺伝子を変異欠失させるという目的であったが、loxPを導入した遺伝子改変マウスは肝炎ウイルスによる感染事故のために、体外受精による再繁殖を余儀なくされ、また、アデノウイルスベクターを用いたCre遺伝子の導入が困難であったことにより、本研究期間の間に当初の目的を達成することができなかった。現在、再繁殖を行い、アデノウイルスベクターの代替え方法として、Sonoporation法によるCre遺伝子の導入を試み、今後も研究を継続していく。今回、同時に行った臓器特異性のないmPTEN遺伝子exon3-5欠失変異(mPTEN)+/-マウスを用いた子宮内膜の観察により、mPTEN遺伝子の欠失変異が子宮内膜の前癌病変である子宮内膜増殖症に関与することが示された。40週齢までのmPTEN+/-マウス(n=63)ならびに野生型マウス(n=30)を用いて子宮内膜の異型度を細胞と構造の両方から5段階(異型なし,軽度異型,中等度異型,高度異型,癌腫)に分けて評価したところ、mPIEN+/-と野生型との間で異型度に有意な差が見られた。野生型マウスの子宮内膜において、軽度異型は50%(15/30)、中等度異型は7%(2/30)で、高度異型や癌腫は認められなかった。一方、mPTEN+/-マウスの子宮内膜では軽度異型が30%(19/63)、中等度異型が27%(17/63)、高度異型が30%(19/63)に認められたが、癌腫はみられなかった。mPTEN+/-マウスの子宮内膜の異型は18週齢以降に出現し、組織学的に比較的大型の腺管の密な増生が認められた。18週齢以降のmPTEN+/-マウスの子宮内膜において特徴的な異型を伴った増殖性変化が観察されたが、今回の40週齢までのマウスでは癌腫の形成は認められなかった。このモデルマウスの観察から、PTEN遺伝子は子宮内膜癌の発生過程において早期に関与する可能性が示唆された。
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