正常子宮内膜では血中性ステロイドホルモンおよびそのレセプターであるエストローゲンレセプターないしプロゲステロンレセプターの発現が細胞間コミュニケーションを司るコネキシンの発現に影響を与えることを報告してきた。本実験では子宮内膜の癌化過程における細胞間コミュニケーションの影響を探るため、これらのレセプターの働きをサポートしていると考えられる熱ショック蛋白HSP27とHSP70の発現について、正常子宮内膜・子宮内膜増殖症・子宮内膜癌における発現を免疫組織化学あるいはウエスタンブロット法によって調べ、これらが子宮内膜増殖症で過剰に発現していることが明らかになった。また、性ステロイド以外にも子宮内膜の増殖・分化に影響を与えることが期待されるレチノイン酸に対するレセプターRARとRXRについても正常子宮内膜の月経周期での発現と細胞内局在を検索したところ、増殖期内膜でこれらが強く発現していることが明らかになり増殖期から分泌期にかけての細胞分化に強い影響を与えていることが示唆された。この、レチノイン酸も細胞間のコミュニケーションに影響を与えることが期待される。 細胞接着蛋白の一つであるb-cateninの遺伝子異常と細胞内局在について子宮内膜増殖症と子宮内膜癌、さらに子宮内膜増殖症を伴った子宮内膜癌について検討した。この実験では、子宮内膜癌では10%程度に遺伝子異常は認めるものの、増殖症では60%以上の症例でb-cateninの局在異常を認めながら遺伝子異常は認められなかった。以上より子宮内膜の癌化にはb-cateninの遺伝子異常をともなわずにWntの活性化が起きているものと考えられた。
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