研究概要 |
癌の根絶ではなく、転移・浸潤巣の増大を抑制する治療(tumor dormancy therapy)の確立を目指し、hepatocyte growth factor(HGF)のantagonistであるNK4,urinary trypsin inhibitor(UTI)および免疫抑制サイトカインであるIL-10に着目した。これらの転移・浸潤抑制作用を検討し、さらにアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた卵巣癌に対する新しい遺伝子治療の確立を目的として、以下の研究を遂行した。対象は、卵巣癌腹膜播種モデルとして卵巣癌細胞株HRA, SHIN-3を用いた。NK4発現プラスミドベクターおよびUTI発現プラスミドベクターを作製し、卵巣癌細胞に遺伝子導入を行った。HRA/NK4ではin vitroのscratch wound healing assayにおいて遊走能の低下が認められた。またマウス腹腔内にHRA/NK4を接種したところ、コントロールに比べて腹膜播種の抑制がみられ、また腹水産生抑制,延命効果が確認された。HRA/UTIにおける検討でも、遊走能、浸潤能の著明な抑制がみられ、また腹水産生の抑制も認められた。さらにUTIの活性部位であるHI-8を分離し、ATF-HI-8発現プラスミドベクターの作製に成功した。これをHRAに遺伝子導入した結果、UTIと同様に細胞の遊走、浸潤が抑制された。IL-10についてはSHIN-3を対象に発現ベクターを作製し、さらにAAVベクター化にも成功した。AAV-IL-10をマウス筋肉内に接種した結果、血管新生、腹膜播種、腹水産生が抑制され、さらに生存期間の延長もみられた。 癌抑制遺伝子PTENには塩酸イリノテカンに対する感受性を増強する作用のあることが遺伝子導入実験で確認された。またHRA/PTENでは細胞遊走が抑制された。thymidylate synthase(TS)のDNAを子宮頚癌細胞SKG-IIに遺伝子導入し、TS強発現株の作製に成功した。SKG-II/TSはコントロールに比べ放射線感受性が低下し、また5-FUに対する感受性も低下した。以上の成果は、卵巣癌に対するdormancy therapy,遺伝子治療,および有効な化学療法選択への足掛かりになると考えられた。
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