研究課題
はじめに、この研究の柱であるヒト側頭骨の検索について、1)開頭許可を承諾して頂いた剖検例が極めて少なかったこと、2)側頭骨悪性腫瘍症例において、内耳神経節を進展範囲上やむを得ず摘出する症例での検索がなかった事をまず記さなければならない。そこで母胎の風疹感染により人工中絶されたセロイジン包埋側頭骨の4症例を追加検討し計11症例でα-tubulin RNAの検出を試みた。今回検討した4症例中1例でRNAが検出され、以前の結果と合わせて11症例中8例(72.8%)で検出が可能であった。RT-PCR法を用いたRNAの解析がヒト側頭骨標本についての病態解明に利用できると考えられた。また潜伏感染→再活性化の臨床例の検討として、1999年に受診した例で早期にPCR法により唾液からVZVを検出し、抗ウイルス剤の併用により聴力改善が得られた突発性難聴症例を経験した。われわれの研究結果では、健康成人の唾液中にはVZV DNAは全く検出されない。発症後2日目に唾液からVZV DNAが検出された為、従来の治療法に加えて抗ウイルス剤の併用を試みたところ、聴力回復が得られた。実地臨床上内耳からの直接検体採取が困難である以上、一つの傍証として、唾液からウイルスDNAが検出されたかかる症例では、抗ウイルス剤の投与は根拠に基づく治療の一つと考えている。新興・再興感染症という概念からウイルスを含めた感染症の重要性・危険性が再認識されてきている状況において、ヒト内耳に的を絞りこの重要な感覚器におけるウイルス潜伏感染について、HHV-6・7を含めて、平成12年度にさらに検索する。
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