研究概要 |
1.FVBマウスおよびmdr1a遺伝子欠損マウスの血液・内耳関門機能の薬理学的検討 (1)mdr1a遺伝子欠損マウスとFVBマウスにadriamycin, vinblastine, cisplatinを投与し、4,24時間後に内耳や脳組織を採取した。各薬剤の組織内濃度を測定し、薬理動態を比較した。mdr 1a遺伝子欠損マウスではP-糖蛋白による薬剤の排出が阻害されることにより、内耳組織中のadriamycinとvinblastine濃度が有意に高値を示したが、cisplatin投与では両群に差が認められなかった。 (2)FVBマウスを2群に分け、adriamycinまたはvinblastineの単独投与群と、cyc1osporin A併用投与群で薬剤の組織内濃度を測定、比較した。その結果、併用投与群では、単独投与群に比して脳や内耳における薬剤濃度が有意に高値を示した。すなわち、cyclosporin AはP-糖蛋白の機能を阻害することが確認された。 2.FVBマウスおよびmdr1a遺伝子欠損マウスの聴覚機能に関する生理学的検討 (1)mdr1a遺伝子欠損マウスとFVBマウスにadriamycin, vinblastineを投与し、各群の聴覚をABRを指標にして測定した。FVBマウスではABRの域値上昇は見られなかったが、mdr1a遺伝子欠損マウスでは投与3週目に平均10dBの域値上昇と、I〜V波の各波潜時の延長を認めた。この域値上昇や潜時の延長は一過性であり、投与8週で投与前の値に回復した。一方、cisplatinを投与した群は、mdr1a遺伝子欠損マウスとFVBマウスいずれにおいても域値上昇を認めたが両群間に差はなく、しかも非可逆性であった。 (2)FVBマウスを2群に分け、adriamycinまたはvinblastineの単独投与群と、cyclosporin A併用投与群でABRを測定、比較した。その結果、cyclosporin A併用投与群では、単独投与群に比して有意な域値上昇と各波潜時の延長を認めた。すなわち、cyclosporin AはP-糖蛋白の機能を阻害することが生理学的にも確認された。 以上の結果より、mdr1a遺伝子欠損マウスでは内耳からのadriamycinやvinblastineの排出が制限されるために内耳に薬剤が蓄積した結果、聴覚障害を生じるであろうこと、逆に野生型ではP-糖蛋白によってadriamycinやvinblastineが排出されるために、耳毒性が出現しないのであろうと推測された。
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