[目的]低速回転のコリオリ刺激は、遮眼で受動感覚、奇妙な眼振、重心の移動を生む。しかし、裸眼ではこれらは観察されず姿勢も安定している。この違いは、脳内に外界ベクトルを想定することで単純に説明可能である。今回は、高速回転でこの原理が成立するか否かを調べた。[方法と対象]実験には回転起立台(永島医科)を用いた。起立台中央に重心動揺計を設置し、その上に被験者は足縁を3cm離して起立した。前胸部で腕を組み、頭部前方に傾斜角度計を取り付けた。回転は右回転とし50°/sから20°/s間隔で150°/sまでの回転刺激を与えた。回転開始120秒後に前屈し、90秒後に直立頭位に戻し、90秒その姿勢を保った。遮眼と裸眼で10名の健康成人と1名の両側前庭機能消失者を対象に実験した。足位の移動や踏み変えのある場合は起立不成功と判定した。[結果]50°/sの裸眼と遮眼の起立成功率(起立成功例数/10×100)は94.7%、57.9%であった。遮眼裸眼いずれも、回転速度の増加と共に起立成功率は急速に低下し、110°/s以上ではほぼ全員が不成功であった。1名の両側前庭機能消失者はコリオリ刺激の影響を受けず、遮眼の110°/sでも起立可能であった。[考察と結論]低速の受動回転では、視覚から脳内に再現された外界空間は、コリオリ刺激中の前庭器からの慣性入力とベクトル合成し、外界を再現し続ける。このため、裸眼では受動感覚や揺らぎは生まれない。しかし、高速移動では視覚から外界を再現できないので、裸眼においても相対的に慣性入力が過大となり、低速の遮眼と同様の現象が生まれる。前庭器機能を失うと、慣性入力が投影されないので、揺らぎがないのは当然である。今回の結果より、高速の能動移動で揺らがないのは、固有覚からの身体移動情報(小脳)が空間情報(脳幹)を修正するためと考えられた。
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