回転中に頭部を傾斜すると、裸眼では影響されないが、遮眼では奇妙な感覚と揺らぎ、眼振が起こる。この違いは脳内に外界のベクトルを想定すると、単純な原理で説明可能である。今回の研究では、a)裸眼と遮眼の違いが速い回転で成立するか、b)連日刺激を反復するとどこまで適応するか、c)裸眼と遮眼で訓練効果に違いがあるか、d)コリオリ刺激の適応はベクトル理論で説明可能か、を調べた。 平成11年度は、コンピュータ駆動の回転椅子を回転起立台に改造した。平成12年度は、コリオリ刺激下(頭部の前屈と直立)の起立成功率を回転速度を変えて調べた。50度/秒の回転では裸眼と遮眼で有意差(89.5%/57.9%)が見られたが、70度/秒以上では有意差が消失し、90度/秒以上では急速に低下した。平成13年度は、連日のコリオリ刺激反復が起立上限速度に及ぼす影響、視覚の有無が訓練効果に及ぼす影響、さらに訓練による獲得機能の性質を調べた。20分間の刺激を9日間反復することにより、半数以上の被験者が視覚の有無と無関係に、200度/秒で起立可能となった。訓練終了後に回転方向を逆転すると、初日の成績にまで低下した。一方、頭部の側方傾斜刺激では訓練効果が維持されていた。 以上をまとめると次の結論が得られる。a)コリオリ刺激に対し短時間、短期間で姿勢は適応する。b)起立上限速度は200度/秒をはるかに上回る。c)視覚は訓練効果に影響しない。d)コリオリ刺激への空間識の適応は、reference frameが静止空間から回転空間に移行することでベクトル理論で説明可能である。
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