研究概要 |
(1)メニエール病患者における内リンパ嚢を電顕にて検索したところ大部分の例は変性が著しかったが、エンドサイトーシスが残存していると考えられる例も存在した。 (2)内リンパ嚢は固有の電位(endolymphatic sac DC potential;ESP)を有していることが知られている。ESPは内リンパ嚢の機能をよく反映した電位と考えられているがヒトESP測定の報告はない。我々はヒト内リンパ嚢ESPの測定システムを作製し聴神経腫瘍およびメニエール病の手術中にESPの測定を行い,組織学的な変化とESP電位との関連を検討した.聴神経腫瘍患者のESP電位は約13.2±2.13mと安定しており、内リンパ嚢は組織学的に殆ど異常所見を認めなかったことより、測定された電位はヒトESPの正常値に近似するものとみなすことができるものと思われる。一方、メニエール病患者においては2.4mVと低電位を呈した例と18.2mVと聴神経腫瘍例と変わらない電位を呈した例がみられ、低電位を呈した例の内リンパ嚢は変性が著明であった。同じメニエール病においても内リンパ嚢の機能がかなり残存しているものと機能的に既に廃絶している内リンパ嚢を有しているものとがあるものと推定される。今後更にESP電位、組織学的変化、手術成績を比較することによりメニエール病の病態解明・治療法に新たな知見をもたらすことができるものと思われる. (3)初代培養したラット内リンパ嚢のfluid phase endocytosisを調べたところpH8.0、カリウムイオン150mM、0mM、isoproterenolで抑制された。内リンパ嚢内腔の内リンパはpH6.85,カリウムイオンは15mMであることが知られてがこの条件下ではfluid phase endocytosisは活発であった。また、、isoproterenolはESPを抑制することが知られておりESPは内リンパ嚢のよく反映した電位であると思われる。 (4)transgenic mouseを用いた内リンパ嚢上皮のcell line作製に成功し更にRT-PCRにて水チャネルaquaporin(AQP1〜6)が発現されていた。このcell lineは内リンパ嚢上皮水輸送研究に利用可能と思われる。 (5)cationic liposomeを用いGren fluorescent proteinのcDNAをラットの初代培養内リンパ嚢への導入を試みたところ上皮細胞にも蛍光が観察され遺伝子が導入できることが判明した。基礎実験において遺伝子が導入されることが判明したが、今後更により効率のよい導入法など検討が必要であろう。
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