ディジタル処理による音声加工によって、感音性難聴の語音異聴を改善する方法を明確にすることを目的に研究を実施した。音声加工の方法は、ワークステーションによる高度の音声加工ソフトウェアを使用して行ない、子音および母音の周波数スペクトラムに影響を与えない方法で、子音部分の時間を伸長した。伸長時間は個別の子音ごとに子音部の持続時間を2倍とした。したがって、伸長時間は子音ごとに異なっていた。評価のために音声加工を行った語音を用いて有声子音の明瞭度検査テープ(有声摩擦音と有声破裂音と通鼻音と半母音のテープ)および無声子音の明瞭度検査テープ(無声摩擦音と無声破裂音と無声破擦音によるテープ)を作成した。音声加工の効果を検討する方法として、多数の感音性難聴患者を対象として、上記の明瞭度検査用テープによる明瞭度検査と57S語表による明瞭度検査を行った。その結果、有声子音では、/m/、/n/、/r/の明瞭度が改善した。/b/、/d/、/z/は難聴患者で明瞭度が低い語音であるが子音伸長による明瞭度の変化は認めなかった。/w/、/y/、/g/は難聴患者で明瞭度が高い子音であるが子音伸長による明瞭度の変化は認めなかった。無声子音の結果では、/t/、/s/の明瞭度は改善し/k/、/h/の明瞭度は悪化した。子音伸長で明瞭度が改善する子音は、日本語会話において出現頻度が高い単音節であるので、子音伸長は会話理解を助ける効果があると考えられた。今後の研究方向として、難聴患者の会話理解をより助けるために、子音強調と子音伸長の併用効果の研究を進める必要がある。
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