研究課題
これまでに中耳真珠腫上皮の増殖機序について研究を行ってきた。本年度は中耳真珠腫の上皮増殖に関し、主に細胞周期の観点から研究を行った。その結果、中耳真珠腫では骨部外耳道皮膚に比較してcyclin dependent kinase 2(cdk2)、cdk4、cyclin Dの発現亢進を認め、これらが細胞周期関連物質の発現を規定し、上皮増殖を導くことを証明した。一方、表皮細胞に特有である終末分化の研究においては、分化のシグナル伝達に中心的な役割を果たすprotein kinase Cδ(PKC δ)、PKCηおよびCK1、CK10、Involcurinの発現を検討し、真珠腫上皮の終末分化が正常皮膚と動揺であることを証明した。加えて、アポトーシス抑制遺伝子Bcl-XLが上皮細胞の分化を抑制している可能性が示唆され、真珠腫上皮細胞のアポトーシスも正常皮膚と同様におこっていることが確認された。すなわち、各種サイトカインの発現亢進によってもたらされた上皮の過増殖が、正常な終末分化とアポトーシスによって調節された結果、中耳真珠腫の特徴であるケラチンデブリの異常堆積を生ずるものと推察された。基礎研究と共に臨床面においては、癒着鼓膜上皮のmigrationの観察をはじめ、真珠腫の成因を解明する試みを行った。また鼓膜癒着症に対し、トリクロル酢酸を用いて、癒着上皮を融解させ、正常に近い中耳粘膜の再生を促す試みを行った。