唾液分泌障害はその多くは唾液分泌低下による口腔乾燥症状であり、その原因としてはシェーグレン症候群、放射線照射の副作用の他、加齢による唾液腺実質の萎縮や腺細胞自体の分泌能の低下が考えられる。男女を比較した場合女性の方が加齢と腺実質の萎縮の相関関係は高いことが判る。女性でも閉経を境に口腔乾燥症状が著明となってくる。卵巣を摘出した動物(ラット)実験では耳下腺実質の減少は認められるが、顎下腺ではその変化は極めて少ない。ヒト唾液腺でも手術時に得られた組織の検討から同様に顎下腺の変化は少ない。高齢者の萎縮した耳下腺組織の電子顕微鏡像は腺房細胞、筋上皮細胞ともリポフスチン顆粒やライソゾームが目立つが、腺組織の萎縮や細胞自体の微細レベルの変化が必ずしも分泌能と相関しないのも事実である。残存腺細胞の分泌予備能に起因するのかもしれないが、今後の検討課題である。一方、唾液腺症は非腫瘍性、非炎症性に両側唾液腺腫脹を来すが、摂障害すなわち拒食症や過食症に起因する唾液腺症の耳下腺腺房細胞分泌顆粒は微細レベルで大きく、電子密度の低いいわゆるpale granule typeの形態を呈する。これらのことより、摂食障害に関連する唾液腺症は持続する分泌刺激とくに唾液蛋白の放出を促進するβ受容体刺激が背景にあることが推測される。
|