内耳は側頭骨に囲まれ血液内耳関門を有するため、体循環や全身免疫機構から隔離された部位と信じられてきた.そして、聴力障害やめまいの多くが、内耳やその中枢に原因があって生じると考えられてきた.これに対し、われわれは、体循環の免疫担当細胞が容易に内耳に到達し、局所で免疫反応として分裂・増殖することを観察し、内耳免疫機構が全身免疫機構の一部であることを示した.そして、自己免疫性機序の疑われているメニエル病が、慢性甲状腺炎や若年性糖尿病と同様、内耳における臓器特異性自己免疫性疾患である可能性を示した.また、早期老人性難聴モデル動物であるSAM/P1マウスを、異なる微生物環境下で飼育して全身免疫機能を変化させると、この動物の聴覚も変化することを観察し、全身免疫機構と内耳免疫機構との関連性を示した. つぎに、こうした疾患発生機序の研究結果を応用して、蝸牛障害の予防法や治療法につき検討した.まず、先述の早期老人性難聴モデル動物に対し、正常マウスからの骨髄を用いた骨髄移植を行い、ホストマウスの血液骨髄細胞とこれによって形成される全身免疫機構の再構築を行った.すると、早期免疫能の低下と早期老人性難聴が、予防出来ることが明らかとなった.さらに、自己免疫性感音性難聴を示しステロイド依存性感音性難聴のモデルとされるMRL/1prマウスにも、同様の目的で骨髄移植を行った.すると、蝸牛障害発症前のマウスに骨髄移植した場合では疾患の予防が、発症後のマウスに骨髄移植した場合では疾患の治療が出来ることが判明した. したがって、ホストの免疫機構を再構築するための骨髄移植治療が、こうした内耳障害に有効と考える.また、また、MRL/1prマウスの免疫異常が1pr遺伝子に由来した遣伝性疾患であり、SAMP1マウスでも3つの遺伝子が老化促進に関与していることを考えれば、ヒトの難聴の原因遺伝子を解析し、患者から自己の骨髄幹細胞を取り出したうえで、この細胞の異常遺伝子を正常遺伝子で置き換えてから体内に戻すという遺伝子治療に発展する可能性も考える
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