1)ラット角膜上皮創傷治癒機転に関するSCFの影響 ウイスター系ラット角膜上皮欠損モデルを用いた点眼実験において、SCF投与による角膜創傷治癒速度の有意な促進が見られた。また、角膜上皮細胞の増殖に及ぼすSCFの影響を検討する目的で、SCF点眼開始後36時間目の眼球に対して、BrdUの取り込み実験を行ったところ、SCF点眼群においてBrdUの取り込みが有意に促進していた。また、肥満細胞欠損ラットであるWs/Wsおよび+/+ラットを用いた角膜上皮欠損モデルによるSCF点眼実験においては、+/+ラットと比較して、Ws/Wsラットの角膜上皮創傷治癒過程に明らかな遅延が見られた。 2)マウス角膜上皮創傷治癒機転に関するSCFの影響 マウス眼表向におけるSCFおよびc-kitレセプターの発現について、RT-PCR法および免疫組織化学染色法により検討を行った。その結果、SCFは角膜上皮および結膜に発現しており、c-kitは角膜上皮基底細胞層に強く発現していることが確認された。また、マウス角膜上皮欠損モデルを用いたSCF点眼実験により有意な角膜創傷治癒速度の促進が認めちれたほか、c-kit欠損マウスおよびSCF欠損マウスを用いた角膜上皮欠損モデルにおける角膜創傷治癒速度は有意に遅延していた。この上皮創傷治癒の遅れは、SCFを点眼することにより、SCF欠損マウスで回復したものの、c-kit欠損マウスでは不変であった。 3)角膜上皮細胞接着に対するSCFの影響 SCF及びc-kit受容体の発現を確認したSV-40不死化ヒト角膜上皮細胞を用い、SCFの細胞接着に対する影響を検討した。その結果、SCF添加により角膜上皮細胞の細胞接着がさらに促進されることが判明した。また、抗SCF抗体により内在性SCFをブロックした際、抗体の添加により細胞接着が濃度依存的に阻害された。また、ペプチドを用いた実験により、この接着機転にインテグリンが関わっていることも明らかとなった。これらの事実は、SCFが角膜上皮細胞の接着に関与している可能性を強く示唆している。
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