1)ラット角膜上皮創傷治癒機転に関するSCFの影響 ウイスター系ラット角膜上皮欠損モデルを用いた点眼実験において、SCF投与による角膜創傷治癒速度の有意な促進が見られた。肥満細胞欠損ラットであるWs/Wsおよび+/+ラットを用いた角膜上皮欠損モデルによるSCF点眼実験においては、+/+ラットと比較して、Ws/Wsラットの角膜上皮創傷治癒過程に明らかな遅延が見られた。 2)マウス角膜上皮創傷治癒機転に関するSCFの影響 マウス角膜上皮欠損モデルを用いたSCF点眼実験により有意な角膜創傷治癒速度の促進が認められたほか、c-kit欠損マウスおよびSCF欠損マウスを用いた角膜上皮欠損モデルおける角膜創傷治癒速度は有意に遅延していた。この上皮創傷治癒の遅れは、SCFを点眼することにより、SCF欠損マウスで回復したものの、c-kit欠損マウスでは不変であった。 3)角膜上皮細胞接着に対するSCFの影響 SCF及びc-kit受容体の発現を確認したSV-40不死化ヒト角膜上皮細胞を用い、SCFの細胞接着に対する影響を検討した。その結果、SCF添加により角膜上皮細胞の細胞接着がさらに促進された。また、抗SCF抗体により内在性SCFをブロックした際、抗体の添加による細胞接着が濃度依存的に阻害された。さらに、ペプチドを用いた実験により、この接着機転にインテグリンが関わっていることも明らかとなった。 4)ヒト結膜乳頭増殖組織内におけるSCF/c-kit受容体の局在の検討 網膜剥離手術時に切除した眼球結膜と春季カタル患者の結膜乳頭切除時に採取した眼瞼結膜乳頭について凍結切片を作成し、抗SCF抗体及びc-kit受容体抗体を用いた免疫組織化学染色を行った。この結果、結膜下線維芽細胞のほか、乳頭組織内の血管内皮細胞にもSCFの発現が認められた.一方、c-kitは結膜上皮および肥満細胞に発現していた。 5)涙液中SCFの測定 正常者及び季節性アレルギー性結膜炎患者からの涙液にはSCFは検出されなかったが、春季カタル患者涙液からは483±286pg/mlという高レベルのSCFを検出した。
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