今回の研究期間において、まず眼内への遺伝子導入法の基礎研究を行った。その結果、LacZを示標としたアデノウイルスベクターをラット前房内に入れた場合、主に角膜内皮細胞に、また硝子体腔内に入れた場合は網膜神経節細胞に遺伝子が導入されたが、毛様体、脈絡膜への取り込みはみられなかった。硝子体内へ注入した場合でも、ぶどう膜、網膜への遺伝子導入は見られなかった。ラットに実験的自己免疫性ぶどう膜炎を惹起して同様の実験をおこなった。炎症眼では角膜内皮細胞、前房隅角組織への遺伝子取り込みはむしろ抑制されることが明らかになった。毛様体、脈絡膜への取り込みはやはりみられなかった。しかし、網膜下に注入した場合は網膜色素上皮細胞や炎症眼では炎症細胞に遺伝子が導入された。臨床の場では網膜下投与は困難であり、さらなる投与経路とベクターの検討が必要と考えられた。また眼周囲組織でも導入遺伝子の効果の発現を見るため、VEGFレセプターの一つであるflt-1を分泌するアデノウイルスベクター(AdfltFc)をin vivoに投与し、マウス眼瞼腫瘍の発育を調べると発育抑制効果が見られた。眼周囲組織へ効果が及ぶことがこの系では明らかになった。次にぶどう膜炎の炎症における遺伝子治療の標的を決める目的でノックアウトマウスを用いた実験をおこなった。CD8分子を欠損したマウスではEAUの発症がより早期になり増強する傾向があった。またMCP-1の受容体であるCCR2分子の欠損マウスではリンパ球に代わって好中球が眼内に浸潤した。これらの機能分子がぶどう膜炎の病態を変化させることが示された。これらの結果は眼内での炎症反応を制御する遺伝子治療のターゲットとして、今後の治療モデルの開発につながる可能性が示された。
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