研究概要 |
癌患者の一部に中枢神経系への腫瘍転移浸潤はないが、腫瘍細胞に神経細胞との共通抗原が生じるため自己免疫機序が成立し、種々の中枢神経症状を呈することがある。これを総称して悪性腫瘍随伴神経症(paraneoplastic neuropathy)呼んでいる。これにはEaton-Lambert症候群や傍腫瘍性小脳変性症などが有名であるが、これ以外に特に網膜視覚系の障害を呈するものを傍腫瘍性光受容体変性症または癌関連網膜症(CAR, carcinoma-associated retinopathy)と呼んでいる。CARを引き起こす癌の原発病巣として肺癌特に小細胞癌が最も多く、次いで消化器系および婦人科系の癌頻度が多いことが知られている。CARには臨床的に遺伝性進行性網膜脈絡膜変性症である網膜色素変性症に類似の症状、即ち桿体視細胞障害に基づく視感度の低下、視野狭窄等の症状を特徴とする狭義のCARと、皮膚悪性黒色腫に随伴し、網膜2次ニューロンの障害に基づくCARとは若干異なる臨床像を呈する悪性黒色腫随伴網膜症(MAR, melanoma associated retinopathy)2)がある。 CARおよびMARの病因として患者血清中に見られる抗網膜抗体が視細胞を障害することが本症の病因として考えられているが、これらの網膜自己抗原が1)何で、2)どのようにして自己抗体が獲得され、3)これら自己抗体がどのような分子機序で網膜障害を起こすかなど詳しいことはわかっていない。 従って、CARの病態を理解とこれに対する治療法をデザインする上で最も本質的と考えられる以下の3つの研究課題に焦点を当てて検討した。 1)網膜自己抗原の同定を行った。 2)癌患者でリカバリンやHSC70に対して自己免疫を獲得する機序の解明した。 3)自己抗体の網膜障害の分子機構の解明とその対策法を明かにする目的で検討を行った。
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