マウスの心停止モデルを作成し、虚血再灌流後の網膜神経細胞死がどのような時間経過で起きるのかを形態観察した。心停止モデルの作成は、大動脈をクリップを用いて牽引し、心臓を圧迫させて一時的に心臓を完全停止させて行った。5分間の完全心停止後に心肺蘇生を行い、その後再灌流した。12時間、24時間、48時間、72時間、168時間後に眼球を摘出し、光顕および電顕的観察を行った。虚血再灌流後24〜48時間に網膜の神経細胞は著明な細胞変性がみられた。細胞変性を起こした神経細胞は、細胞の委縮、核濃縮や断片化などがみられたが、細胞質中のミトコンドリアの膨化や破裂などの形態学的変化はみとめられなかった。また、このような細胞はTUNEL陽性であり、しかも細胞内のCaspaseファミリーのうちCaspasc-3陽性であったことから、心停止モデルマウスにおける神経細胞死は、遅発性神経細胞死(アポトーシス)であることが明らかになった。 TNFαは海馬や大脳皮質の神経細胞死を誘導し、また網膜の神経細胞死にも関与すると考えられている。そこで、TNFα遺伝子欠損マウスを用いて心停止を行い、神経細胞死が抑制されるか否かを形態観察した。野生型マウスでは、上記と同様に網膜の神経細胞は遅発性に神経細胞死をおこしたが、遺伝子欠損マウスでは神経細胞死が著明に減少していた。また、TUNEL陽性細胞も遺伝子欠損マウスでは著減しているのが観察された。また、TNFαによる神経細胞死の過程では、細胞内のCaspase-3が活性化し、その結果DNAの断片化が生じると考えられている。心停止を行ったマウスの網膜のCaspase-3活性は、遺伝子欠損マウスの方が野生型のものに比べて顕著に低下しているのが明らかになった。TNFαが虚血性の網膜神経細胞死を誘導すると考えられる。
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