直腸肛門奇形の発生過程を妊娠早期より詳細に解明するために、モデルマウス胎仔を用いた実験的研究を行った。C57BL/6マウスを交配後、妊娠9日目(E9)にEtretinate60mg/kgを含むゴマ油を経口投与した。一方、E9にゴマ油のみを投与したものを対照群とした。E9.5からE13まで0.5日ごとに妊娠マウスを犠牲死させ、取り出した胎仔を直ちにZamboni液で固定したあとパラフィン包埋し、正中矢状断の4μm切片を作成した。この切片を用いて、細胞増殖能の指標として抗PCNA抗体を用いた免疫組織化学染色を行い、アポトーシスの指標としてTUNEL法を施行した。その結果、Etretinate投与群では全例で直腸肛門奇形の発生を認め、病型は雄では直腸尿道瘻、雌では直腸排泄腔瘻であった。PCNA染色では、E11を除いて両群で尿直腸中隔を含めて相違点を認めなかった。E11では対照群で尾から総排泄腔膜、生殖結節にかけてPCNA強陽性の細胞集団を認めたが、Etretinate投与群では認められなかった。また、TUNEL法ではE11とE12を除いて両群で異なる所見を認めなかった。E11ではEtretinate投与群で背部尾側に強く染色される部位を認めたが、対照群では認められなかった。E12では、対照群で肛門開口部に一致した染色陽性の所見が得られた。すなわち、細胞増殖と細胞死に関する検討では、直腸肛門奇形の発生過程における尿直腸中隔の発育の障害を指摘できなかった。むしろ、E11の直腸肛門奇形マウス胎仔において総排泄腔膜に細胞増殖が認められず背部尾側に過剰な細胞死が認められたことから、中胚葉系の細胞が細胞死することで肛門を形成する場を失ったことが直腸肛門奇形の発生に関与している可能性が示唆された。
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