研究概要 |
直腸肛門奇形と他の合併奇形の発生過程を妊娠早期より詳細に解明するために,モデルマウス胎仔を用いた実験的研究を行った。C57BL/6マウスの雌雄を約2時間交配後,膣栓の確認をもって妊娠0日目,0時間とした。妊娠7,8,9、10日目にEtretinate30mg/kgあるいは60mg/kgを含むゴマ油を経口投与した。一方,ゴマ油のみを投与したものを対照群とした。E18に妊娠マウスを犠牲死させ,取り出した胎仔を直ちにホルマリン液で固定したあと実体顕微鏡で奇形の発生を観察した。その後、パラフィン包埋し,正中断,矢状断,水平断で6μmの連続切片を作成し組織学的に検討した。 その結果、妊娠8日目(E8)のマウスでは,直腸膀胱瘻,水腎症,二分脊椎を発生した。また,Etretinateを60mg/kgを投与したE9のマウスでは,雄で直腸前立腺部尿道瘻,雌で直腸総排泄腔瘻を発生した。そして,同量のEtretinate投与群E10のマウスでは合併奇形として63.6%に口蓋裂,68.2%に前肢の奇形,全例に短尾発生を認めた。Etretinateを妊娠早期に投与するほど,重症の直腸肛門奇形の発生がみられた。すなわち,E9にEtretinateを投与した群は直腸肛門奇形のモデルとして適しているが,E8に投与した群は水腎症や二分脊椎のモデルとして適していると考えられた。 これらの結果を踏まえて,直腸尿道瘻を中心に排便機能に関して重要とされる内外の肛門括約筋の発生および発達過程について細胞増殖と細胞死を指標に検討しているところであり,中胚葉系の細胞動態が直腸肛門奇形そのものの発生に密接に関わっている可能性を推測している。
|