研究概要 |
我々は、神経縫合、遊離神経移植、血管柄付き神経移植の神経再生過程における細胞接着分子であるE-cadherin,N-cadherinの発現性およびα-cateninについて検索した。ラットの坐骨神経に、前記3種類の神経再建モデルを作製し、経時的に神経標本を採取してトルイジン・ブルー染色を行い、神経再生過程を病理学的に検索するとともに、抗Eおよび抗N-cadherin抗体、抗α-catenin抗体を用いた免疫染色とwestern blot法を行い、E-cadherin、N-cadherin、α-cateninの発現量の変化と、その局在性について検索した。神経縫合モデルでは、縫合部より遠位側でE-cadherinの発現は一度減少し、その後発現量が増加、縫合21日目にはコントロールレベルに戻ることがわかった。遊離神経移植及び血管柄付き神経移植では、病理組織学的には遊離移植よりも血管柄付移植の方が移植神経組織内での構築が早く正常化することが判明した。E-cadherinは神経縫合モデルと同様に、一度発現が減少した後に発現量が増加したが、一方N-cadherinは移植直後より徐々に発現量が増加した。いずれにおいてもこの2つのカドヘリンは、移植後14週目にはコントロールのレベルに戻ることがわかった。遊離神経移植と血管柄付き神経移植での発現量を比較した場合、両カドヘリン共に血管柄付き移植でより早く増加し発現量も多かった。しかしながらα-cateninについては遊離、血管茎付きいずれの移植片においても発現量の有意な変化はみとめられなかった。発現の局在性についてはE-cadherinでは、再生軸索周囲の増殖したシュワン細胞で発現が増強しており、N-cadherinは再生軸索の表面で発現が増強していた。これらの結果から、E-cadherinは、神経再生過程のなかのBungner帯を形成する過程において、シュワン細胞の増殖や接着などにおいて、また、N-cadherinは再生軸索の伸長、成熟化する過程においてそれぞれ重要な役割を有しているものと考えられた。さらに神経移植においては、これらの接着分子の発現調節に対するα-cateninの関与は少ないものと考えられた。
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