1、GABA誘導体であるピラセタム投与によって、創傷治癒が促進されることが明らかになった。ことに創収縮の作用が強いことが特徴的である。この物質は中枢神経において神経伝達物質を介して神経間の連絡の増強作用があることが推定されている。この物質は経口投与でも腹腔内投与でも効果の発現が認められるが、局所投与では効果が得られないため、作用機序としては中枢性あるいはホルモンの作用を通じて働いている可能性が有る。 2、ピラセタムと同様に皮弁の延長効果のあるトロンボキサンA2阻害物質であるs-1452を用いて同様に創傷治癒促進効果の有無を検討したが、ここでは創傷治癒促進効果は得られなかった。血小板凝集抑制作用が創傷治癒の初期にはマイナスの作用を持つことが推定できた。 3、臨牀においては褥瘡が最も重要な問題となっているが、このモデルとなる動物はない。褥瘡モデルとしてラットの皮下に鉄板を挿入し、体表に磁石を置き、一定の間隔で阻血再潅流を繰り返した。体表の血流量はドップラー血流計で測定した。圧迫を解除すると皮弁は一過性に血流量が増加した。圧迫時間が3時間を越えると褥瘡に近い全層の壊死を生じた。このモデルによって安定した褥瘡モデルが作成できることが明らかになった。今後はこのモデルを使用し、褥瘡の創傷治癒過程を検討できる。阻血再還流障害が褥瘡の基本的な病態であることを明らかにした。 4、創傷治癒の増殖期の持続状態であると考えられるケロイド、肥厚性瘢痕の動物モデルを考案した。この過程で肉芽形成に表皮化が関与していることが推定された。 5、肥厚性瘢痕の表皮の免疫組織学的検討を行ない、基底細胞が増殖促進された状態にあることが示された。すなわち表皮化が肉芽形成を部分的に制御していることが明らかになった。
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