研究概要 |
創傷治癒過程において、様々な要因により、線維芽細胞などを抑制する条件に異常が生じ、肥厚性瘢痕や、ケロイドが形成されると考えられているが、これらの発生原因や治療法に関しては、今だ不明な点も多い。 ヒト皮膚線維芽細胞に対する細胞増殖因子や、サイトカインなどの影響について現在まで、様々な報告がなされ、ケロイド形成においても細胞増殖因子や、サイトカインなどの関与が報告されてきた。 以前我々は,正常線維芽細胞では、Tumor Necrosis Factor(TNF)-α、Transforming Growth Factor(TGF)-βそれぞれ単独刺激で細胞増殖を促進し、TNF-αおよびTGF-βの併用による細胞増殖抑制がみられること、またケロイド由来の線維芽細胞では、TNF-αおよびTGF-β単独刺激では、細胞増殖にほとんど影響が見られずTNF-αおよびTGF-βの併用による細胞増殖抑制がみられたと報告した。 TGF-βは、最初、肉腫細胞より産生され、腫瘍の増殖に関する物質,形質転換因子として発見され、その後の研究により、様々な組織に線維化をもたらす因子の一つとして注目を集めている。またTNF-αは、様々な組織や細胞において多彩な作用を示し、感染症や炎症性疾患などの反応を引き起こす細胞傷害活性原因物質として注目されている。現在では各々に、線維芽細胞や他の様々な細胞に対して多様な生物活性を示すことが報告されている。 本研究で我々は、手術時に得られたケロイドおよび周辺正常組織から線維芽細胞を遊出し、細胞増殖因子、特にTransforming Growth Factor(TGF)-βとTumor Necrosis Factor(TNF)-αとの相互作用について、コラゲナーゼの酵素活性とそのメッセンジャーRNA(mRNA)について検討を行った。その結果、ケロイド由来の線維芽細胞においてTNF-α単独刺激ではコラゲナーゼの酵素活性が促進されたのに対し、TNF-αおよびTGF-βの併用によるコラゲナーゼの酵素活性抑制がみられた。またmRNAレベルではTNF-α単独刺激と、TNF-αおよびTGF-βの併用には優位な差が見られなかった。これらの結果は、酵素活性レベルでのTGF-βのTNF-αに対する抑制作用と考えられる。細胞増殖因子によるケロイドに対する治療の可能性が示唆された。
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