本研究は、歯周病関連菌の主要な病原因子の一つであるエンドトキシン(LPS)の生物活性が口腔レンサ球菌リポタイコ酸(LTA)によって拮抗阻害されることを実証し、そのメカニズムを解明することによって歯周局所における口腔レンサ球菌と歯周病関連グラム陰性菌の相克の背景を明らかにしようとして企画した。本研究により次のような成果を得た。1、口腔レンサ球菌であるStreptococcus sanguisとStreptococcus mutansのLTAは、LPSや合成リピドAのCD14高発現ヒト歯肉線維芽細胞やヒト単球に対する炎症性サイトカイン誘導作用を完全に拮抗阻害した。2、CD14分子に加え菌体表層成分を認識しシグナルを細胞中に伝達する分子群にToll-like receptors(TLRs)がある。ノックアウトマウスの実験から、他の菌種のLTAはCD14/TLR2系をLPSはCD14/TLR4を介して認識されることが示された。3、既知のLPSアンタゴニストであるLA-14-PPはヒトの系において、CD14/TLR4リガンド(LPS)に加えCD14/TLR2リガンド(LTA)の活性も拮抗阻害することから、この拮抗阻害にはCD14分子が深く関わっていることが示された。4、口腔レンサ球菌LTAの単球への結合は抗CD14抗体によってほぼ完全に抑制され、native-ポリアクリルアミド電気泳動法でレコンビナントCD14と結合することから、口腔レンサ球菌LTAのエンドトキシンアンタゴニスト作用はCD14分子を巡る作用機構であることが実証された。5、さらに、主要な歯周病関連菌Porphyromonas gingivalisの産生するシステインプロテアーゼ(gingipain)や好中球セリンプロテアーゼ(エラスターゼ)はヒト単球やヒト歯肉線維芽細胞の発現するCD14分子を特異的に切断して、菌体成分応答能を低下させることも示された。
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