研究概要 |
昨年度は、HRP注入法によって標識された咬筋運動ニューロンの樹状突起上にシナプスする軸索膨瘤を観察した。その結果、軸索膨瘤の50%が抑制性伝達物質であるGABAまたはglycine陽性であり、48%が興奮性伝達物質であるglutamate陽性であった。また、抑制性終末の9%がGABAのみに、27%がglycineのみに、27%はGABA、glycineの両方に陽性であった。以上より、咬筋運動ニューロンへの抑制性入力の様態が、脊髄運動ニューロンとは異なることが明らかとなった。 そこで本年度は研究を発展させ、三叉神経吻側核(Vo.r)に位置する運動前ニューロンを標識し,その軸索終末の微細構造を定性的及び定量的に分析した。その結果、Vo.rニューロンには、閉口筋運動ニューロンにシナプスするもの(Vo.r-dlニューロン)と、開口筋運動ニューロンにシナプスするもの(Vo.r-vmニューロン)が存在し、全てのVo.rニューロンの軸索瘤は、抑制性伝達物質を含有すると考えらる多形性シナプス小胞を含有し、細胞体もしくは幹樹状突起と対称型シナプスを形成していた。軸索瘤の体積と表面積、apposed surface area及びactive zoneの総面積は、Vo.r-dlニューロン、Vo.r-vmニューロン間には違いが認められなかった。しかし,シナプス小胞数とシナプス小胞密度は、Vo.r-dlニューロンの方がVo.r-vmニューロンよりも有意に高い値を示した。シナプス小胞密度を除く他の計測値は軸索瘤の体積と正の相関関係を示したが、小胞密度は負の相関関係を示した。また、glycine antagonistであるstrychnineとGABAA antagonistであるbicucullineの静脈内投与は、Vo.rの電気刺激によって閉口筋運動ニューロンに誘発されるIPSPを抑制した。一方、Vo.rの電気刺激により開口筋運動ニューロンに誘発されるEPSPは、NMDA antagonistであるAPVとnon-NMDA antagonistであるCNQXの開口筋運動ニューロン群内への投与により抑制され、IPSPが出現した。 以上より、Vo.r運動前ニューロンが三叉神経運動ニューロンに対する抑制性介在ニューロンであり、伝達物質の放出に関与する軸索瘤の超微構造が、一次求心線維と同じ形態的特徴を持つことが明らかとなった。
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