歯周疾患の進展には上皮付着の破壊が初期に起こる必要があり、一方、治癒過程においては再生付着上皮の歯面への再付着が必須の要因となってくる。付着上皮細胞間や上皮細胞と基底膜を介した結合織との結合、付着上皮細胞とエナメルおよびセメント表面との付着機構に関与する接着分子を検討することは、歯周疾患の病態の理解に極めて重要であると考えられる。本研究の目的は、付着上皮形成過程と、再生付着上皮および歯周疾患罹患後の治癒過程にみられる長い付着上皮における、接着分子とそのリガンドである細胞外マトリックスの発現を検討し、これらが生体防御機構にどのように関与しているかを明らかにすることである。 ラットの無処置の付着上皮においては、ラミニン5がエナメル質表層の内側基底板に、明瞭な細い帯状となって観察されるとともに、ラミニン5をリガンドとする細胞膜上の接着蛋白で半接着斑の構成要素であるインテグリンα_6β_4も同様に、付着上皮のエナメル質側の内側基底板に局在していることを確認した。このことから、ラミニン5とインテグリンα_6β_4が、内側基底板と半接着斑を形成し、付着上皮細胞のエナメル質表層との接着と、細胞遊走に重要な役割を果たしていることが示唆された。これらの接着分子と細胞外マトリックスの形成機序を観察するために、ラット口蓋側歯肉を麻酔下に切除後、経時的に標本を作製しラミニン5とインテグリンα_6β_4等の局在を免疫組織学的に検索したところ、創面を被覆してエナメル側に伸展するする細胞表面および表層細胞の細胞質内にラミニン5とインテグリンα_6β_4の発現を認め、エナメル表面との接着により、内側基底板部に限局するようになることが観察された。このことから、再生付着上皮細胞においては、細胞の増殖とこれらの接着蛋白および細胞外マトリックスの細胞内での合成が増大する事が考えられた。
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